同展を訪れたのは、2017年の展覧会にも足を運んだという写真家の藤代冥砂さん。旅、家族、山、ヌードと幅広いタイプの写真を撮る藤代さんは、ソール・ライターの作品をどのように鑑賞し、どのように感じたのだろうか?
「今日は事前情報をなにも入れずに来たので、まっさらな気持ちで拝見します」
そう言って会場に足を踏み入れると、歩みのスピードを緩めることなく、どんどん先へと進んでいく。
「僕の展覧会の見方は“逆走型”。まずはざっと最後まで行って、出口から入り口へと戻りながら観るのが常なんです。順路通りにじっくり見ていると、作品のパワーに負けて途中でスタミナ切れすることがあるので、この鑑賞法が身に付いちゃいました」
ゆっくりと会場を“逆走”しながら、藤代さんはぽつりと言葉を漏らす。
「とても不思議な感覚に捉われますね。写真を観ているのに、実際に鑑賞しているものは写真じゃないような。明確に言葉にできないもやっとした感じだけど、とても心地よい」
ライターの写真は、独自の色彩感覚や構図に評価が集まることが多い。藤代さんはその事実を認めながらも、こう付け加える。
「気高く、よい匂いが漂ってくるよう。写真表現を超えて、そこに見え隠れするのは、『生きる』とか『呼吸をする』といったような、人間の普遍的な部分を見せている気がしてなりません」
写真を超える感覚をもつ、ライターの写真。藤代さんは、ライターと対照的な存在として、同時期に活躍したアメリカの写真家、リチャード・アヴェドンを例に挙げる。
「アヴェドンの写真は圧倒的。被写体と対峙し、その魅力を写真でぐっと引き出している。写真はファインダーで世界を切り取る表現だとも言われますが、対してソール・ライターの作品は、世界のどこかにつながっている『ドア』のような存在に映ります」
父が望んだユダヤ教のラビとして生きる道から逃れた人生、そして第一線のファッション・フォトグラファーとしてのキャリア。約束された世界に収まることなく、自由に生きたライターの精神性も関連しているのかもしれない。
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February 07, 2020 at 03:00PM
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