慶應義塾大学を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゼネラル・エレクトリック、製薬企業のグラクソ・スミスクラインでキャリアを積んだ末藤梨紗子は、ビジョナル社のCFO(最高財務責任者)に就任した。
撮影:西山里緒
2020年1月、ゴールドマン・サックスのCEOがダボス会議で発したある発言のニュースが、世界中を駆け巡った。
「アメリカでは女性が経営層に入っている企業の業績は、そうでない企業より“著しく良く”(中略)経営層に白人男性しかいない企業のIPO(新規株式公開)は、今後担当しない」
男性だけの経営陣に世界の金融大手が、とうとうノーを突きつけたのだ。
世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ指数で153カ国中121位の体たらくとなった日本でもここ最近、スタートアップに新たな潮流が生まれている。女性CFO(チーフ・フィナンシャル・オフィサー、最高財務責任者)が続々と誕生しているのだ。
なぜ彼女たちはスタートアップに“賭ける”のか?3人の女性CFOに、直接話を聞いた。
バット振りたい!に応える会社
「(社長の)南から、会社の第二創業期の組織づくりを一緒に成し遂げないかと言われたとき、この経営者と一緒に仕事をしたら、見たことのない世界が見えるんじゃないか、って思ったんです」
2月10日、転職サービスを運営する「ビズリーチ」などをグループ会社に持つビジョナル社のCFOに就任した末藤梨紗子は、目を輝かせながらそう語る。
ビジョナル社長の南壮一郎と末藤は、モルガン・スタンレー証券に新卒で入社したという共通点はあるが、それまで面識はなかった。
きっかけは、ある採用イベントで共に登壇したことだ。
「会社をこれから背負うCFOは、財務ができることはもちろんだが、事業会社で経験を積んだ人がいい」 —— ゼネラル・エレクトリック、製薬企業のグラクソ・スミスクラインで経営戦略に携わってきた末藤は、南のそんな思惑にピタリとハマった。
女性の一定以上の昇進を阻む見えない障壁は「ガラスの天井」とも呼ばれる。内閣府の発表によれば、上場企業における女性役員比率の割合は5.2%(2019年)と、諸外国と比較しても低い。
そんなガラスの天井から、少しずつ光が射し始めている。
「今はバットを振りすぎてフラフラ」と笑う、ABEJA(アベジャ)CFOの加藤道子。
モルガン・スタンレー時代の末藤の後輩で、世界銀行や投資ファンドを経て、2018年6月に人工知能ベンチャー「ABEJA(アベジャ)」に参画した加藤道子も、女性CFOのひとりだ。
2018年12月には、グーグルから日本国内出資の第1号案件として資金調達を達成した。これも彼女の交渉手腕があってこそだ。
8年ほど勤めた金融業界から、人工知能ベンチャーという未知の領域にCFOとして飛び込んだ理由について尋ねると、加藤は少し考えて、こう答える。
「思いっきり、バット振れてないなあって。大失敗も大成功もしてなくて、もっと勝負がしたくなった。今は振りすぎて、フラフラなんですけれど(笑)」
“意外と調整役”なCFO
データを見てみると、世界の潮流においてもファイナンス領域での女性経営層の活躍が目立つ。
フォーチュン誌が毎年発表している企業番付「フォーチュン500」によると、女性CEOの数は2019年に33人を記録している。女性CFOの数は58人(2015年)と、CEOの倍近い数だ。
S&Pグローバルマーケットインテリジェンスの2019年の発表によると、女性CFOが就任した企業は、男性の前任者と比較して、平均して利益が6%増加、株式収益が8%増加したという。
あずさ監査法人、カカクコムを経て、スタディプラスのCFOとして活躍する中島花絵。
なぜ、経営層の中でも特にCFO領域で女性の増加が目立っているのか?資格がある程度機能する「専門職」という点は、その理由の一つだと言えそうだ。
あずさ監査法人やグルメサイト「食べログ」などを運営するカカクコムを経て、教育スタートアップ「スタディプラス」のCFOに就任した中島花絵のキャリアも、公認会計士からのスタートだ。そのきっかけは、一橋大学生時代に漠然と感じた「女性として働くこと」に対する不安だったという。
「教育の場では男女差別ってないですけれど、社会に出たらどうなるかわからない、だからとりあえず資格を取っておこうと。学生の安易な考えだったかもしれませんが……(笑)」
目標達成のためにがむしゃらに突き進むというより、全体の調整を行うCFOという仕事の特色も、中島の性格には合っていたようだ。
「バリバリ資金調達をする役割……と思われがちなんですが、それだけではない。機関投資家が求めている情報をちゃんと提供したり、株主との期待値調整をしたり、問題が起きないようにリスクヘッジしたり。意外と調整役なんですよ」(中島)
「若くて女性」という異例
「若い女性」であることはビジネスにおいて不利なのか。
撮影:今村拓馬
とはいえ、世界的にみても女性経営者の比率は数パーセント台。大前提として、女性は圧倒的なマイノリティだ。話を聞くと、彼女たちは多かれ少なかれ、こうした「マイノリティとしての自分」に直面した体験があるという。
末藤は30歳を過ぎた頃に外資系の事業会社で部長職に就いた時、インド人男性の上司から言われた言葉が忘れられないという。
「どんなに優秀であっても、きみは『若いこと・そして女性であること』という二つの『異例』をすでに背負っている。その二つがあることで、人はきみに戸惑いを覚えるかもしれない」
自分らしくいていい、けれども周りと違うことを認識し、コミュニケーションのやり方を変えられる柔軟さを持ってほしい —— 男性上司からのそんなアドバイスは、末藤のその後の仕事の進め方を形作った。
妊娠・出産という大きなライフイベントを経験しながらも、キャリアを築いてきたCFOもいる。
アベジャの加藤が妊娠に気づいたのは、ハーバード・ビジネス・スクールを卒業し、投資ファンドに転職してから1カ月後のことだった。当時の同僚はほとんどが男性。「やばい、こんなタイミングで妊娠してしまって、自分の居場所がなくなるかも」 —— 当時の焦りを、加藤は率直にそう振り返る。
加藤は出産後、育休を取らずに復職した。
「今思えば、取ってもよかった。大変なこともあったけれどなんとかなったし、想像以上に周囲に応援してももらえた。でも当時はやっぱり『負けちゃいけない』と強く思っていて、むしろ自分が(休んではいけないと)思い込んでいたのかも」(加藤)
「1日8時間」経営
「長時間残業しない」主義の中島。
日本企業が長らく前提としてきた「働く夫+専業主婦」という家族像も、すでに当たり前のものではなくなった。時にハードに働くことを求められる女性経営者の働き方は、日本社会における新しい家族像や、個人のワーク・ライフ・バランスをどう実現するかの問題を投げかける。
「スタディプラス」中島の夫は、腎臓に重い障害を抱えている。夫は午前9時から午後5時で働き、夫婦の食事を作る。それが中島にとっての暮らしの“当たり前”だ。
「夫は身体が無理できないことを知っているので『絶対昇進してやる!』という感じではなくて。『家事を優先的にやってくれ』と言われることもないので、私は働きやすいですね」
とはいえ、中島自身も毎日深夜残業をする生活ではない。毎日の仕事を切り上げるのは午後7時頃。「深夜までやってもクオリティって意外と変わらないんですよ」と笑う。
人材難が続く日本企業の現状も、スタートアップの働き方に影響を与えていると、中島はみる。
「今は人材不足で、長時間労働はダサいという風潮も強まっていますから、会社としてマンパワーでどうにかする設計だと、採用に響いてくるんです」
ゴールドマン・サックスもついに宣言
ここ最近、世界の一流企業でも、女性リーダーを登用・育成する機運が急速に高まっている。
先述のゴールドマン・サックスの発表のほか、グーグルも2019年、スタートアップ施設の立ち上げにおいて女性起業家の支援に特に注力する、と発表している。さらにビル・ゲイツ氏の妻であり慈善事業家のメリンダ・ゲイツ氏は2019年10月、向こう10年間で10億ドル(約1070億円)を男女平等の推進に寄付する、と発表した。
日本企業はどうだろうか?外資系企業・スタートアップとキャリアを渡り歩いてきた末藤は、こう語る。
「見たことのない世界を見てみたいんです。いつかは、日本社会に大きなインパクトをもたらすことができれば……。そんな日が来れば、いいんですけどね」
(敬称略)
(文・写真、西山里緒)
編集部より:初出時、キャリトレをグループ会社に持つビジョナル社としておりましたが、キャリトレはビズリーチ社が運営するサービスです。訂正致します。 2020年2月10日 10:00
"女性" - Google ニュース
February 10, 2020 at 02:50AM
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