MASHING UPカンファレンスvol.3で2つのセッションに登壇し、現代日本社会の風潮に鋭く斬り込んだのは、社会学者の上野千鶴子さんです。
たとえば、すっかり定着した「女性活躍」や「ダイバーシティ」という言葉について、
女性活躍は聞いたとたん「気持ち悪い」って思う。「女性」を「男性」に置き換えてみるとわかる。「男性活躍」って言葉、どうか。
「男女平等」はまったく実現されていないのに、あらゆる場面で「ダイバーシティ」に置き換えられようとしている。両者は違うもの。男女平等を口にしたくない人たちが、「男女平等はもう古いから」と「ダイバーシティ」でごまかそうとしているのでは。
と指摘。また、
(子どもに対する)責任を家庭ではなぜ女性だけが担うのか。男性の育児休暇取得を義務化すべき。
夫ひとり変えられなくて、社会は変えられない。
と提言するなど、わかりやすくも核心的に現状をひもとき、私たちに示唆を与えてくれました。
セッション終了後の上野さんに、日本女性、そして日本社会が置かれている現状や変革のためにすべきことについて、あらためてお話を伺いました。
意識を変えるには、家庭での男性の役割が重要
セッション「家族のカタチ2019 - 家族 is the bestという呪縛」でコラムニスト犬山紙子さんと対談する上野さん。
── 若い女性の中には女性差別を感じたことがないという人も多いようです。意識が変わってきているのでしょうか。
上野さん:人によるでしょうね。女子高育ちで、社会人になるまで女性差別は経験したことがありませんという女子はたくさんいます。ただ、彼女たちに「あなたが育った家庭はどうだったの?」と聞くと、親の世代で夫婦関係が対等なカップルはほとんどいません。
── 今後を変えていくには、家庭環境が重要になりますね。特に男性が変わらなければ。
上野さん:そうです。子どもは親を真似ますからね。高校が別学、共学の男女それぞれのジェンダー意識を調査した結果を見ると、もっとも保守的だったのが「別学・男子校の男子」です。ゆくゆくは、その子たちが“東大男子”になる。女性と付き合ったことがなく恋人もいないのに、自分が結婚する気にさえなれば、いつでも相手が見つかるという根拠のない自信を持っています。それに、子どもを産んでほしいけれど、自分が子育てをしなければならないとは微塵も考えていない。なぜかというと、自分の親がそうやって生きてきたから。そういうものだと思い込んでしまっているんです。
日本企業は現状を変えない限り、“巨艦沈没”する
—— 企業の男性管理職が「男女平等」を謳っていても、それは本音ではないように思えます。
上野さん:セッションで語ったとおり、男性優位の組織文化を自ら変えねばならぬという内発的な動機付けを持たない限り、組織は変わらない。ホモソーシャルな組織文化の中で長い間安逸に過ごしてきたおじさんたちは文化を変えたいと思わないでしょうね。ただ、自分の娘が就職活動で不利益を被ると「そんな理不尽なことを」って異議を唱えるんです。あなたの会社でもやってるんでしょうと思うのだけど。
—— そういう男性たちに、男女平等のマインドをインストールにはどうすればいいでしょう。
上野さん:経営者や管理職を説得する論理は「女使うと、儲かりまっせ」です。女性を活用した方が効率も、生産性も、利益率もあがるということは、ありとあらゆるデータからわかっています。「女性を使わないことで、あなたはこんなにソンしていますよ」というのは、説得理由になるでしょう。
—— 経済性に訴えると。
上野さん:そう。だけど最も大切なのは、どこまで危機感を持っているか、です。危機感のない企業には自らを変えようという内発的な動機付けが起きませんし、動機付けのない組織は絶対に変わりません。
日本はもう製造業の時代が終わり、情報産業と知識資本主義の時代。情報生産性の高い人材を確保しなくてはなりません。では情報生産はどこで起きるかというと、システムの中ではありません。異なるシステム同士の間でしか生まれません。異なるシステムの間に足をかけて、組織の中にノイズを持ち込む、そのノイズが情報に転化して、企業の生産性が高まります。 異質性を高めることが必須なのに、それをわかっていないトップが多いのが現状です。ノイズのない集団にいることが安逸だという生き方をしてきたからでしょう。だから、私は常々言っています。「日本企業は現状を変えない限り“巨艦沈没”する」と。
女性はもっと自己主張をしよう!
—— では、私たち女性にできることは何でしょう。セッションでも「女性は自己主張がへたなのよね」とおっしゃっていましたが。
上野さん:日本の女性は“可愛く”あるように育てられてきていますからね。控えめが美徳とでもいうように、「人生の脇役になれ」と言われて育ってきているわけでしょう。「人生の主役になれ」という育て方を親がきちんとするということがすごく大事だと思いますよ。
もっと自己主張をして、イヤなことはイヤと言う、やりたいことはやりたいと言うこと。そして人生の主役になる生き方をしてほしいですね。
上野 千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。
富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2012年度から2016年度まで、立命館大学特別招聘教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。この分野のパイオニアであり、指導的な理論家のひとり。高齢者の介護とケアも研究テーマとしている。1994年『近 代家族の成立 と終焉』(岩波書店)でサントリー学芸賞受賞。2011年度、「朝日賞」受賞。2019年、フィンランド共和国Hän Honours受賞。
撮影/柳原久子(インタビュー)・今村拓馬(セッション)、取材/上妻靖子
MASHING UPより転載(2020年01月24日公開)
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April 09, 2020 at 02:30PM
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