女性参政権の立役者に「投票しました」米で100年の節目、墓石に感謝のシール次々 - 東京新聞

米ニューヨーク州ロチェスターで先月２９日、投票を報告する女性たちがシールを張ったスーザン・アンソニーの墓石

　小雨の中、傘を片手に訪れる女性たちが、墓石に次々と小さなシールを貼っていく。記されたメッセージは、どれも「Ｉ　ＶＯＴＥＤ！（投票しました）」。

　カナダとの国境に近い米東部ニューヨーク州ロチェスター。大統領選を目前にした今、米国で女性の参政権獲得に尽力したスーザン・アンソニー（１８２０～１９０６年）が眠る墓地が静かな注目を浴びている。

「女性の権利確保はすべての人間の尊重につながる」と話すスーザン・アンソニー博物館のデボラ・ヒューズ館長

　「期日前投票を終えた人々が、彼女に感謝するために貼っていく。もう１５０枚以上。遠くの州から郵送し、貼ってくれるよう頼む人もいる」。近くにあるスーザン・アンソニー博物館のデボラ・ヒューズ館長（６０）が話す。

◆投票権なくても、あえて投票…逮捕

　スーザンは１８７２年、女性が投票できないことに抗議し、あえて大統領選で投票した容疑で逮捕、罰金を科されたことで知られる。米国が女性参政権を認めたのはスーザンの没後、１９２０年のことだった。

　それから１００年。３日の大統領選では、トランプ大統領とバイデン前副大統領の激戦に世界の視線が集中するが、女性の政治進出も焦点の１つとなっている。

　下院選には過去最多の女性候補が出馬。大統領選は民主党のバイデン前副大統領が当選すれば、ハリス上院議員が初の女性副大統領となるなど記録ずくめだ。ただ、真の男女平等には課題も残されている。

　スーザンの墓を期日前投票後に訪れたホリー・クルーグさん（３５）は「女性候補の増加はすばらしい。議会が国民の代表なら女性議員はもっと増えていいはずだ」と話す。

　１９２０年、合衆国憲法修正１９条で女性参政権が認められ、近年、女性議員は着実に増えている。

　ラトガース大の米国女性・政治センターによると、２００１年に上下院で７２人だった女性議員は現在、１２７人まで増加。両院定数合計の２３・７％を占める。ジーン・シンズダク副所長は「男女平等は道半ば」としながら、「女性議員の増加は治安や教育、健康など多様な視点を議会にもたらす」と評価する。

　今回も特に下院（定数４３５）で過去最多の３００人の女性が立候補。当選数も順調なら、「２０年は女性の年になる」（米ＮＢＣニュース）と期待される。

　一方、ロチェスターでは根強い女性差別をうかがわせる出来事もあった。

　今年８月、トランプ大統領が、１４８年前に投票して罰金を科されたスーザンに恩赦を与えると表明。大統領選での女性票を意識したともとれる措置に対し、地元のスーザン・アンソニー博物館が「恩赦を受け入れれば（罰金を科した不当な）裁判を認めることになる」として拒否したところ、嫌がらせの電話が殺到したという。

米ニューヨーク州ロチェスターのスーザン・アンソニー博物館。スーザンが暮らした家の内部には、実際に使った家具なども残る

　デボラ・ヒューズ館長（６０）は「スーザンや女性への侮辱的な言葉ばかりだった」と唇をかんだ。４年前には女性初の大統領を目指し、トランプ氏と争ったクリントン氏が惜敗。大統領選では、女性の活躍をはばむ「ガラスの天井」は破れていない。

　黒人差別や移民規制、経済格差など多くの課題を抱えた今回の選挙。ヒューズ氏は「女性の権利確保は、すべての人間を尊重することにもつながる。そんな社会になるにはどうすればいいか考えてほしい」と訴えた。
（米東部ニューヨーク州ロチェスターで、杉藤貴浩、写真も）